人は社会や環境からの影響を受け成長し、また、常に変容し続けるものです。実際、我々動物の脳神経系は、ゲノム情報などの内因性の情報のみならず、生活環境や親・社会との相互作用などの外因性の情報も受けて形作られます。また、成体になっても、神経ネットワーク構造やその生理学的な機能が随時変化することが分かってきました。本分野では、鳴禽類が個体間音声コミュニケーション能力を生後発達させる機構や、げっ歯類における認知学習機構、病態時における脳機能の 障害機構、培養細胞における遺伝子発現制御機構などを現在、研究対象としています。研究手法としては、分子生物学的技術、細胞生物学、光遺伝学、脳内イメージング、動物行動解析技術を使用し、これらの技術を統合的に用いることで、脳が“変わる”機構を明らかにすることを研究の目的とします。将来的には、脳機能の根源的理解を深めるとともに、脳機能疾患に対する予防法・治療法の開発や、学習や健全な発育を促進するよりよい教育システムの確立を目指します。

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コミュニケーション能力発達過程の解析
言語獲得の動物モデルとして、鳴禽類の「さえずり」習得に着目しています。鳴禽類は生後の社会相互作用の下で音声シーケンスを使用して他個体とコミュニケーションする能力を習得します。このような動物の能力発達に関与する「生まれ」と「育ち」の影響を実験的に制御し、個体の能力の発達メカニズム、認知メカニズムを解明しています。動物モデルでの実験を通じて、ヒトの言語などの高次情報処理に繋がる脳内の神経メカニズム、発達メカニズムの解明を目指しています。

神経可塑性分子機構の大規模解析
独自開発の遺伝子発現―転写因子活性定量評価法によりハイスループットに多数の細胞内在の遺伝子発現―転写因子活性を定量評価し、細胞が刺激を受け、ダイナミックにその性質を変化させる分子機構を明らかにします。また、神経細胞の他にも、がん細胞や幹細胞、各種培養細胞株における遺伝子発現・転写因子活性を明らかにし細胞がその性質を獲得する機構の解析を行っています。

脳内の神経機構とその変化機構の解明
電気生理学的手法や、超軽量顕微鏡を用いて、自由行動する動物の脳内細胞の神経発火を計測し、脳内の高次情報処理機構を明らかにします。また、そのような機能回路が動作する過程、形成される過程、可塑的に変化するメカニズムを明らかにします。さらに、独自技術を用い、生体脳内の可塑性関連分子の機能をライブイメージングすることができるようになりました。これらの技術を用い、脳が情報に応じてどのように機能や変化するのかを明らかにしています。

病態脳の解析と予防法・治療法の開発
ストレス、うつ病、生活習慣病、老化など、脳の機能は状況に応じて大きく変容します。我々は、独自の技術を用い、そのような病態に関わる分子機構を解明する、新たなアプローチを行っています。将来、それら疾患に対する新規予防法・治療法の開発を目指しています。